「内臓がぐつぐつの状態でご遺体を運んだ」――。火葬場では、まれに火葬炉の火が消える「失火」というトラブルが起きることがある。見た目だけでなく強烈な匂いも広がるなか、職員は冷静に対応しなければならない。

 知られざる火葬場の現場の実情について、『最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常』(竹書房)の第5巻を発売した元火葬場職員・下駄華緒さんに話を聞いた。

元火葬場職員・下駄華緒さん ©細田忠/文藝春秋

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「失火」トラブルを10数回は経験

――『最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常』の第5巻では、火葬の途中でバーナーの火が消えてしまう「失火」のトラブルについて描かれていました。下駄さんも、実際に経験したことはあるのでしょうか。

下駄華緒さん(以下、下駄) ありますね。ちゃんと数えたことはないですけど、10数回は経験したと思います。

 新しい火葬場なら炉も新しいので、設備関係のトラブルも少ないんです。でも、私が勤務していたところは、平成初期に造られた古い施設でした。機械ですから、年数が経てばそれだけトラブルも増えるんですよ。

――失火した場合、どのように対処されるのですか。

下駄 まずは点火ボタンを押してみる。燃料が流れるホースが詰まっていないか確認してみる。それでもダメなときは、予備のバーナーに付け替えることもあります。でも、予備のバーナーは最終手段。失火しても、ちょっと機械をいじれば再点火することがほとんどです。

 

トラブルが起こったら時間との戦い

――とはいえ、対処している間にも時間は過ぎていきますよね。その間、ご遺族をお待たせすることにもなると思いますが、どう調整するのでしょうか。

下駄 火葬にかかる時間は、ある程度の余裕を見てご遺族や葬儀屋さんにお伝えしてるんですね。だから、5~10分程度なら調整が効きます。ただそれ以上となると、お骨上げの時間や、その次の火葬にも影響が出てきます。

 だから、トラブルが起こったら時間との戦いなんですよね。失火して、点火ボタンを押しても火がつかなかったら、職員総動員で対応に当たります。それでも火がつかず時間が過ぎていったら、火葬途中のご遺体を他の炉に移し替える、という判断になってきます。

――下駄さん自身は、火葬中にご遺体を移し替えた経験はあるのでしょうか。

下駄 7年勤めて一度もありません。ベテラン職員でも、経験したことのある人はほとんどいないと思います。それくらい、めったにないトラブルですね。それに、火葬場職員としてはできるだけやりたくないんですよ。